あの挑発的な発言の裏側
07年、日本ハムだけでなく、球界の顔となったダルビッシュについて、最も印象に残った出来事を紹介したい。パ・リーグのクライマックスシリーズ第5戦を翌日に控えた10月17日、挑発的な発言をし、そして勝った。心理戦を仕掛け、チームを2年連続の日本シリーズ進出に導いたが、強気発言の裏には、したたかな計算が隠されていた。
2勝2敗で迎えた最終決戦で、舞台は札幌ドーム。のちに北京五輪アジア予選で両輪として日本代表を支えたロッテ成瀬が相手だった。注目の大一番に向けた前日練習後、約50人の報道陣に囲まれたダルビッシュはこう言い切った。「向こうも大観衆なら多少、自分のピッチングができないと思うし、自分はできる。勝てると思います」。
強気なスタイルはいつもだが、今季最も挑発的な言葉といえた。新聞などには発言が大きく取り上げられ、注目を浴びたが、きっちり有言実行した。3ランを浴びるなど4回途中降板の成瀬と対照的に、7回途中1失点。「緊張はなかったが…」と話した成瀬だったが、パ・リーグ相手に今季初黒星を、最後に喫してしまった。「あれは(成瀬の)心の乱れを引き出そうと、あえて言ったんです」。後日、いたずらっ子のように、ダルビッシュはにやけていた。
こうも振り返っている。「先に成瀬さんが点を取られると、ダルビッシュがあんなこと言ってたけど、ホンマに自分の投球ができないのかな、という風になっていくじゃないですか。札幌ドームでは何かあるのかなって思っちゃうから。あの試合は、先制本塁打が出たときに絶対勝ったなと思いました。何があろうとも」。
強気発言は思い付きではなく、取材を受ける前から“戦略”を練っていた。「強気で言っているように見せてるんですよ。オレ、もう勝てるよみたいに。自分はけっこう有言実行じゃないけど、今までそういうことをやってきたじゃないですか。最後は疲れていたし、あういうのは大事だと思う。あそこまで言う必要は全然ないんですけどね」。
父ファルサ氏の教えの1つに「言動が注目されるが、有はそういう人生なんだから。球界のためになると思ったらどんどん言えばいい」という姿勢がある。この時ばかりは、その影響力をチームの勝利のために有効活用した。「挑発」「勝利宣言」などの見出しが躍った新聞を、ダルビッシュは「記事? ありがたかったですよ」。不敵に笑った表情が今でも目に焼き付いている。
(07年12月29日付、北海道HP「ハム番日記」村上秀明)