序章(12)
「シンプル」にノーヒットノーラン
04年3月26日。主将として臨んだセンバツ甲子園1回戦、ダルビッシュはついに大記録を打ち立てた。古豪、熊本工を相手にノーヒットノーランを達成した。
スタンドに詰め掛けた3万6000人が異様に静まり返った。9回裏2死。ダルビッシュが投じた129球目は外角低めのスライダー。相手打者が辛うじてバットに当てた打球は二塁へふわりと上がった。一気に歓声が巻き起こった。大会史上12人目の偉業達成の瞬間だった。
この試合、ダルビッシュの成長が表れていた。「シンプル」な投球。150キロを出そうと力むわけでもない。8種類の変化球を見せつけようとするわけでもなかった。カーブ、スライダー、シンカーの3種類だけを織り交ぜた。3、4回には6者連続三振を奪ったが、三振ショーには走らなかった。外のコースをうまく使い、10個の内野ゴロを積み上げた。大人の投球だった。試合後「内野がよく守ってくれた。みんな心を1つにして、この勢いを保ちたい」と話した。精神的にも成長していた。
バックネット裏には日本ハムの山田正雄編成部ディレクターが1人、投球を見守っていた。「無理して速球を投げるかなと思ったのですが、打者をかわす投球でしたね。前はエラーが出ると、顔に出たりカッとなったりしていましたが、そういう面もなくなった。成長したんでしょう。投手としてのすべてを持っている」。あらためて1巡目指名の思いを強くした。
2回戦では大阪桐蔭に3-2で競り勝った。準々決勝、因縁の済美(愛媛)と対戦。2回戦で肩の張りを覚えたダルビッシュを温存した東北は6-2から9回裏に追い上げられた。最後に高橋勇丞外野手の逆転サヨナラ3ランを浴びた。打球は左翼を守っていたダルビッシュを越えていった。スタンドで弾むボールを、しばらく見つめていた。
(04年12月29日付、日刊スポーツ紙面北海道版から)